鼓膜切開をするというと多くのお母さんはすごく心配になりますよね?わが子に傷をつけることに心を痛めない親はいないと思います。
実際、鼓膜切開を積極的にされる先生もいれば、鼓膜切開をせずに治すとおっしゃる先生もいらっしゃいます。
軽症の場合は必ずしも必要ではありません。
しかし中耳の中でも強い炎症が起こり、中耳に‘うみ‘がたまっているいわゆる重症の状態の場合、鼓膜切開を検討すべきケースが存在します。
例えば、もうちょう(虫垂炎)になって薬で治らなくて手術をした、あるいは扁桃炎がひどくなってうみが溜まり切開した、など他の病気でも、感染してうみが溜まっている部位を切開するということが行われます。
では急性中耳炎の場合はどうなのでしょうか?
それは中耳炎の状態、鼓膜所見、痛みなどの症状、全身状態、それぞれのお子さんのこれまでの中耳炎の頻度な治り方などによって、判断されるべきだと思います。
②切開したほうが早く治る場合
③切開しても、すぐに閉じてしまい元に戻って治りにくい場合
があります。
そして切開を勧めるのは次のような場合です。
・痛みが強い、あきらかに耳をさわり機嫌が悪い。
・発熱が何日も続いている
切開をした方が早く治る確率が高いし、何よりも痛みがなくなり楽になり、聞こえも改善します。
またうみが出ることで熱が下がる可能性があります。
急性中耳炎に罹患しているとき、たいていは風邪などの上気道炎や鼻炎が背景にありますが、その発熱の原因が中耳炎からなのか、鼻なのか喉なのかあるいは気管支炎や肺炎なのか区別がつかないこともあります。
乳様突起炎や髄膜炎などの重症化を防ぐことや、中耳炎以外に重篤な感染症が起こっていないかどうか見極める、という観点からも切開を行い経過観察したほうがよいと判断するケースです。
鼓膜の腫れがごく軽度であれば、早期に治癒が期待できますので数日間は経過観察でよいと思われます。
切開してもすぐに閉じてしまい治りにくい場合というのは確かにあります。しかしこれは切開してみないとわからないことが多く、個々のお子さんのこれまでの中耳炎の経過を踏まえて推測しながら判断していかざるをえません。
では、切開のリスク、つまり後遺症などが残る心配はないのだろうか、ということが疑問に上がってくると思います。
鼓膜切開した穴はちゃんと塞がるのか?
難聴は残らないのか?
そして
鼓膜切開をすると、当然中耳から膿が出てきます。切開した当日から翌日にかけては、ご自宅でも血の混じった耳だれが続きます。心配になるかと思いますが、中に溜まっているものが出てしまう方が、中耳炎の治りは早くなります。
切開した穴は通常は数日で閉じ、問題になることはほとんどありません。むしろ早く閉じすぎて、再度うみが溜まってしまうことの方が問題になることも多いです。
正常の状態で鼓膜を切開すると鼓膜に伝わった音の振動が、減弱して内耳に伝わるため軽度の難聴を来たしますが、中耳炎の状態ではうみがたまることで音の振動が減弱するので、切開により聴力が上昇し、かつすぐに鼓膜は塞がるので難聴を来たすことはありません。
最後に、
ということですが、切開せずに治る中耳炎は多いですし、無理に切開をしなくてももう少し経過を待てば治るケースもあります
切開しなくても生命を脅かすような重症に至るケースは少ないと言えます。
切開が望ましい状況でも、どうしても切開に抵抗があるため薬だけで治療せざるを得ないことがあります。良く効く抗生剤が現時点ではありますので治ることも多々あります。
しかし治癒にかなりの時間が要したり、治療の経過途中で鼓膜が自然に破れて耳垂れが出る(結果的に切開したのと同じ状態)ということもしばしば経験します。
抗生剤がよく効くうちはいいですが、
早期治癒をめざすこと、抗生剤の乱用によって耐性菌を増やさないためにも、重症のケースには切開は有効な手段だと思います。
できれば切開はせずに治したい、というのはお母さんだけでなく、医療従事者も同じ想いです。ですが、時には必要な処置であることをご理解ください。